乱視矯正白内障手術

1. 乱視矯正白内障手術とは?

乱視矯正白内障手術とは白内障の治療と同時に乱視を矯正する手術で、視力をよりクリアに回復させることができます。
白内障手術ではにごった水晶体を取り除き、眼内レンズに置き換えます。通常の眼内レンズには、乱視矯正の機能はありません。従って、乱視がある場合は、眼鏡を使わないと視力が完全には回復しないことが多いです。
そこで、乱視矯正の機能をもつトーリック眼内レンズが登場しました。トーリック眼内レンズを使用して、乱視を矯正し、裸眼で自然な視界を実現することを目的とした手術が可能となりました。

2. トーリック眼内レンズとは?

トーリック眼内レンズとは?

引用:アルコン社プレスリリースより

トーリック眼内レンズは、乱視を矯正するために特殊な設計が施されたレンズです。通常の眼内レンズとは異なり、角膜の歪みを補正する機能を持っています。
乱視のある患者にとって、視力の改善と共に眼鏡を必要としない視界を提供するための効果的な治療法です。

メリット

  • 眼鏡への依存を軽減
  • 視界がよりクリアになる
  • より自然な見え方になる

3. 乱視矯正白内障手術の方法

乱視矯正白内障手術では、PEA+IOL(超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)を用います。この手術では、濁った水晶体を超音波で砕き、吸引し、その後、人工レンズ(IOL)を挿入します。乱視がある場合、トーリック眼内レンズを使用して乱視の矯正を行います。

4. 眼内レンズの選定で注意すること

眼内レンズを選ぶ際には、乱視の種類によって最適な補正方法が異なります。

  • 直乱視(With-the-rule Astigmatism):一般的な乱視の中で最も多いタイプ。垂直な線はハッキリ見えるが、水平な線はぼやけて見える乱視である。
    この直乱視はある程度残しても問題ないことが多い。通常、加齢に伴い軽減する傾向があり、適度な直乱視を残すことで将来的な視力のバランスを取ることができる。
  • 倒乱視(Against-the-rule Astigmatism):直乱視とは逆に水平な線はハッキリ見えるが、垂直な線はぼやけて見える乱視である。

過度に残すと視力の質が低下しやすい。加齢とともに増加する傾向があり、未矯正のままだと視界がぼやけやすくなるため、できるだけ矯正するのが望ましい。

乱視の種類

引用:HOYA

選定の根拠

  • 加齢による変化
    若年層では直乱視が多く見られるが、加齢とともに角膜の形状が変化し、倒乱視の割合が増える。
    そのため、手術時に直乱視を過剰に矯正すると、将来的に倒乱視へと変化した際に不便が生じる可能性がある。
  • 視覚の質への影響
    倒乱視は視界のぼやけを生じやすく、特に近距離作業(読書・スマートフォンの操作)に悪影響を与える。直乱視が適度に残っていると、遠方の視力が比較的安定しやすい。
  • レンズの安定性と調整
    トーリック眼内レンズの軸合わせがずれると、補正効果が減少する。
    直乱視の補正は比較的安定しやすいが、倒乱視の補正にはより精密な調整が必要。

 

5. トーリック眼内レンズ(IOL)の代表的なメーカーと製品

以下に、主要なトーリック眼内レンズのメーカーとその特徴を比較した表を示します。

メーカー 主な製品 レンズタイプ 矯正可能な乱視度数 特徴 コスト帯
アルコン(Alcon) AcrySof® Natural Toric 球面, 非球面 -0.75D 〜 -6.00D 高い視覚性能、色収差の最小化
エーエムオー(AMO) Tecnis® Toric 非球面 -0.75D 〜 -3.00D 優れた鮮明度とコントラスト感 中高
ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J) Tecnis® Symfony Toric 球面 -0.75D 〜 -2.75D アコモデーション能力(近距離視力)も改善
ボシュ・ロム(Bausch + Lomb) enVista® Toric 非球面 -0.75D 〜 -6.00D 強力なハードコーティングで耐久性が高い
シード(SEED) SEED Toric IOL 球面, 非球面 -0.75D 〜 -4.50D 日本市場に特化、手術精度が高い
オリンパス(Olympus) なし なし なし 日本市場ではあまり一般的ではない なし

 

各メーカーの特徴

  • アルコン(AcrySof® Natural Toric)
    視覚性能が非常に高く、特に昼間の視界が明瞭になります。色収差を最小化する技術を搭載しており、鮮明で高品質な視界を提供します。

色収差あり               色収差なし
※色収差による見え方の違い

引用:nikon

  • エーエムオー(Tecnis® Toric)
    非球面デザインにより、コントラスト感度や視覚の鮮明度が高いとされています。特に低照度下での視力に優れ、夜間の視界も安定します。
  •  ジョンソン・エンド・ジョンソン(Tecnis® Symfony Toric)
    加えてアコモデーション能力(近距離視力)の改善が期待でき、遠近両用視力を必要とする患者に適しています。
  • ボシュ・ロム(enVista® Toric)
    耐久性が高く、長期間にわたって安定した視力を提供します。傷に強いハードコーティングで、長期間の使用に耐えます。
  • シード(SEED Toric IOL)
    日本市場向けに特化しており、価格帯が手頃でありながら、乱視矯正精度が高いと評価されています。

6. 最適なトーリック眼内レンズを選ぶポイント

乱視矯正白内障手術は、白内障を治療すると同時に乱視も矯正できる優れた術式です。乱視矯正機能を持つトーリック眼内レンズを使用し、より良い手術後の視力回復を実現できます。
しかしながら、乱視にはいろんなタイプがあり、必ずしも皆様に提供できる術式ではありません。乱視の種類によっては、無理に矯正しない方が良いと考えられることもあります。
医師や専門の視能訓練士と相談し、乱視の種類(直乱視や倒乱視)や視力の要求(遠近両用など)に応じて最適なレンズを選ぶことが大切です。
レンズの選定は、手術後の視力を安定させるため、精密な調整や適切な軸合わせが必要です。よく相談し、ニーズに最も合った眼内レンズの選定を慎重に行うことが大切です。

7. 術前検査の進歩

従来の検査方法に比べて、最近では前眼部光干渉断層計(当院ではCASIA2を使用)のような高精度な解析装置を使用することで、より精確にレンズ度数や軸を決定できるようになっています。

前眼部光干渉断層計 CASIA2

引用:TOMEY

従来のトーリックIOL度数決定方法

過去には、トーリックIOLの度数を決定するために、主に以下の方法が用いられていました:

  1. 角膜の曲率測定:角膜の前面の曲率を測定して乱視の度合いを確認
  2. 角膜トポグラフィー:角膜の形状を詳細に評価し、乱視の軸と度数を決定。

ただし、これらの検査は視力や乱視の程度に影響を与える他の要因(例えば水晶体の状態や眼軸の長さ)を考慮に入れるには精度が足りない場合がありました。

CASIA2の使用と精度向上

近年では、CASIA2という新しい機器により精度が著しく向上しました。
CASIA2は前眼部の詳細な3D画像を撮影できる前眼部OCT技術を搭載しており、特に以下の点で効果的です。

CASIA2は前眼部の詳細な3D画像を撮影できる前眼部OCT技術

引用:前眼部OCT CASIA2 Advanceカタログ

  1. 角膜トポグラフィーの精密化
    CASIA2は角膜の表面形状を非常に細かく、そして正確に測定することができます。これにより角膜の形状が乱視にどのように影響しているかをより詳細に把握できるため、乱視の程度と軸の決定のための高精度なデータが得られます。
  2. 角膜の厚さや水晶体の状態を把握
    CASIA2は角膜の厚さや水晶体の状況も評価でき、これにより乱視矯正における屈折力の精度が向上します。また、これらの情報はレンズ度数の決定において非常に重要な要素となります。
  3. 乱視の軸の精密測定
    CASIA2で得られたデータを基に、乱視の軸(角膜の歪みの方向)を非常に精密に決定できます。この軸のずれが少ないと、IOLが乱視を正確に補正するため、患者さんが眼鏡を必要とせずに生活できる可能性が高まります。

検査の流れと手術に向けたステップ

1. 事前検査:患者さんの目の状態を徹底的に調べます

CASIA2を使って前眼部OCTを行い、角膜の状態や水晶体、乱視の程度と軸を測定します。また、眼軸長や前房の深さなど、目全体の情報も収集します。

2. 乱視軸と度数の決定
  • CASIA2から得られる3D画像を用いて、角膜トポグラフィーを基に乱視の軸を決定します。
  • 患者さんの眼軸長や水晶体の状態、角膜の歪みを総合的に考慮して、最適なトーリック眼内レンズの度数を決定します。
3. レンズ選定

乱視の程度、患者さんの生活スタイル(例えば近視や遠視の矯正の必要性)、そして予測される術後視力を基に、最適なIOL(例えば単焦点、または多焦点トーリックレンズ)を選定します。

4. IOL軸の決定とマーキング
  • IOLの軸合わせが非常に重要です。トーリックIOLを挿入する際には、乱視の軸に正確に合わせる必要があります。これをIOLマーカーを使って実施します。IOLマーカーは、手術前に角膜に目印をつけるために使用され、IOLの軸を正確に合わせるためのガイドとなります。IOLマーカー
    IOLマーカー

  • マーキングの後、眼内レンズを正しい位置に挿入し、乱視をしっかり矯正できるように調整します。

5. 手術の実施

白内障手術と同様に、超音波を用いて水晶体を取り除き、トーリック眼内レンズを所定の位置に挿入します。手術後、レンズの位置や角膜の状態を再確認して、乱視が効果的に補正されているかをチェックします。

8. IOLマーカーとその重要性

IOLマーカーは、トーリックIOLの軸を正確に合わせるためのツールです。手術前に、目の角膜にマーキングを行い、IOLの位置が乱視の矯正軸と一致するようにします。このマークを元に、IOLが確実に所定の位置に挿入されるため、術後に視力が安定します。
マーカーの使用は、手術の精度を大きく高め、トーリックIOLが最大限の効果を発揮できるようにします。正確な軸合わせがなければ、乱視が十分に補正されない場合があります。

9. まとめ

最近では、CASIA2などの高度な機器が活用され、トーリック眼内レンズの度数決定における精度が格段に向上しました。
これらの機器を用いることで、角膜の状態や乱視の軸を精密に測定でき、患者さんに最適なレンズ度数を選定することが可能になります。また、手術中に使用されるIOLマーカーによって、トーリックIOLの軸が正確に合わせられ、乱視の矯正効果が最大化されます。

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