1. 老眼とは?
老眼(presbyopia)とは、加齢によって水晶体の柔軟性が低下し、近くのものが見えにくくなる現象です。40歳前後から始まり、多くの人が50代には老眼を自覚します。
2. 老眼のメカニズム
2.1 目の調節機能
目の中には水晶体というレンズがあり、毛様体筋がこれを調節してピントを合わせます。
しかし、加齢とともに水晶体が硬くなると、毛様体筋の力では調整が難しくなります。
2.2 眼光学的な変化
- 水晶体の硬化:弾力性が低下し、焦点を近くに合わせにくくなります
- 毛様体筋の機能低下:筋肉の収縮力が弱まり、調節能力が低下します。
- 瞳孔の縮小:加齢により瞳孔が小さくなり、光量調整が難しくなります。
3. 老眼の発症年齢と進行
老眼は一般的に40歳前後から始まり、以下のように進行します。
- 0〜10歳:調節力は 15〜20ジオプトリー 程度あり、非常に高い。
- 10〜20歳:調節力は 10〜14ジオプトリー に低下し、徐々に減少し始める。
- 30〜40歳:調節力は 4〜7ジオプトリー まで低下し、近距離作業で目の疲れを感じやすくなる。
- 40歳頃:調節力は 3.5〜4ジオプトリー 程度になり、近くがぼやけると感じることが増える。
- 45〜50歳:調節力は 2〜3ジオプトリー まで低下し、新聞やスマホの文字が見づらくなり、手元を遠ざけて見る。
- 50歳以降:調節力は 1〜2ジオプトリー になり、裸眼での読書が困難になり、老眼鏡が必要になる。
- 60歳以上:調節力は 1ジオプトリー未満 となり、ほぼ調節機能を失う。
4. 白内障手術後の老眼と眼内レンズ
白内障手術により水晶体が人工の眼内レンズ(IOL)に置き換えられると、調節機能を完全に失います。そのため、眼内レンズの種類によって老眼の影響が異なります。
- 単焦点眼内レンズ:遠くか近くのどちらかにピントを合わせるレンズ。近くを見るためには老眼鏡が必要になります。
- 多焦点眼内レンズ:遠く・中間・近くの複数の距離にピントを合わせるレンズ。老眼鏡なしでもある程度の視力を維持できますが、光のにじみ(ハローやグレア)を感じることがあります。
- 焦点深度拡張型眼内レンズ(EDOFレンズ):単焦点レンズと多焦点レンズの中間的な特性を持ち、連続した焦点範囲を提供することで、中距離から遠距離にかけて自然な視界を確保できます。多焦点レンズと比べてハローやグレアが少ないのが特徴です。
- 調節機能付き眼内レンズ:毛様体筋の動きを活用して、ある程度の調節力を持つレンズ。現時点では技術的な制約があり、一般的には多焦点レンズが主流となっています。
5. 老眼の診断方法
● 視力検査(近見視力の測定)
● 調節力検査(水晶体の調節力を測る)
● 屈折検査(眼鏡処方のための測定)
6. 老眼の対策
6.1 適切なメガネを選択する
老眼対策には適切なメガネを使用することが重要です。
- 単焦点老眼鏡:近距離専用のメガネ
- 遠近両用メガネ:遠くと近くの両方にピントを合わせられる(詳細解説)
- 中近両用メガネ:デスクワークやパソコン作業向け
- ハード・ソフトコンタクトレンズ:遠近両用タイプもあり(詳細解説)
6.2 その他の治療法
● 老眼手術(多焦点眼内レンズ)
● 調節力サポートレンズ(眼内レンズを用いた視力回復治療)
● 目のトレーニング(ピント調整力を鍛える)
● ピロカルピン点眼薬(FDA承認済みの薬剤)
7. ピロカルピン点眼薬の老視治療への応用
7.1 FDAによる承認が得られている
ピロカルピンは老視治療のためにFDA(米国食品医薬品局)により承認された点眼薬です。この薬は、短時間ながら近見視力を向上させる効果があり、特に軽度〜中程度の老眼患者に適用されます。
7.2 ピロカルピンの薬理作用
ピロカルピンは、副交感神経刺激薬(ムスカリン受容体作動薬)であり、主に以下の作用を持ちます。
- 瞳孔を縮小させる(縮瞳作用):ピロカルピンは虹彩括約筋を収縮させ、瞳孔を小さくすることで被写界深度(ピントが合っているように見える範囲)を増し、近見視力を向上させます。目を細めると見えやすくなる遠くが見えやすくなりますがそれと同じです。眼科医としてお勧めはしませんが、ピンホールメガネはこの原理をつかって、レンズを使わずに見えやすくする器具です。
ピンホールメガネの例
引用:価格.com - 毛様体筋の収縮を促進:水晶体を厚くし、近距離に焦点を合わせやすくします。
- 房水流出の促進:眼圧を下げる作用があり、緑内障治療にも用いられます。
7.3 日本でのピロカルピンの使用状況
日本においても、ピロカルピン点眼薬は緑内障治療薬として古くから使用されており、近年では老視治療への応用も注目されています。現在、一部の眼科医療機関では試験的に使用されており、国内の承認状況や適応範囲の拡大が期待されています。
8. 生活習慣の改善
老眼の進行を遅らせるために、以下の習慣を取り入れることが重要です。
● 適度な休憩:長時間の近距離作業を避ける。
● バランスの取れた食事:ビタミンA、C、E、ルテインなどを含む食材を摂取。
● 適度な運動:血流を改善し、目の健康を維持する。
9. まとめ
老眼は避けられない加齢現象ですが、適切な対策を講じることで快適な視生活を送ることができます。眼科クリニックでの定期検診を受け、自分に合ったメガネや治療法を選びましょう。