眼科治療におけるレーザー(YAGとDYE)

眼科治療におけるレーザーは、視力回復や病気の治療に非常に効果的なツールです。
ここでは、特にYAGレーザーとダイレーザー(Dyeレーザー)について、それぞれの特徴、使用方法、適応疾患について詳しく説明します。

1. YAGレーザー

YAGレーザー(Yttrium-Aluminum-Garnetレーザー)は、眼科において広く使用されるレーザーの一種です。YAGレーザーは、特に後発白内障の治療に非常に効果的で、その他の眼疾患にも使用されます。

YAGレーザーの特徴と適応

原理

YAGレーザーは、イットリウム(Y)、アルミニウム(A)、ガーネット(G)にネオジム(Nd)をドープした(少量添加した)YAG結晶を用いたレーザーで、主に1064nmという波長(眼には見えない)のレーザー光を発生させます。この波長は、眼の組織に非常に高いエネルギーを与えることができ、特に水分を多く含む組織に対して効果的に作用します。

使用される治療:
  • 後発白内障
    白内障手術後、人工レンズを挿入した後に後嚢が濁って視力が低下する現象を後発白内障と呼びます。この後発白内障を治療するために、YAGレーザーを使用して後嚢を切開する手法が一般的です。この治療法はYAG後嚢切開またはYAGレーザー後嚢切開術と呼ばれ、数分で完了し、患者にとっては非常に効果的で安全性が高く、負担の小さい視力回復手段です。
  • 緑内障
    特に、閉塞隅角緑内障の場合にYAGレーザー虹彩切開(YAGレーザーによる虹彩の小さな切開)を行うことがあります。これにより眼圧が下がり、症状を改善することができます。
  • 飛蚊症
    網膜の前部に透明な硝子体という組織がありますが、加齢等により濁ることがあります。濁りが見えて蚊が飛んでいるように見えるので飛蚊症と呼ばれます。YAGレーザーで飛蚊症の治療を行うことができます。

YAGレーザーの利点

  • 高精度
    非常に高い精度で目の特定の部分をピンポイントで治療を行えるため、精密な手術が可能です。
  • 低侵襲
    切開を必要とせず、レーザーで治療を行うため、患者の負担が少ないです。
  • 迅速な回復
    治療後の回復が早く、通常は数日以内に視力が改善されます。

YAGレーザーの注意点

  • まれに後嚢切開後に再度濁りが発生することがありますが、追加のYAGレーザーで再治療が可能です。
  • 高いエネルギーを使用するため、誤って網膜を損傷しないように慎重に行う必要があります。

2. ダイレーザー(Dyeレーザー)

ダイレーザーは、色素(ダイ)を用いて特定の波長のレーザー光を発生させるレーザーです。ダイレーザーは、色素レーザーとも呼ばれます。
様々な目に見える色(波長)の光を出力できるため、異なる眼科疾患に対応することができます。特に、緑内障や網膜疾患の治療に広く使用されます。

ダイレーザーの特徴と適応

原理

ダイレーザーは、色素(例えば、ローダミンやアルギン酸染料)を溶媒に溶かして、特定の波長(光の色)、例えば、532nm:緑や585nm:黄色のレーザー光を発生させます。
色により作用する組織が変わるので、特定の組織を狙って作用させることができます。

使用される治療:
  • 緑内障治療
    ダイレーザーは、選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)に使用されていました。SLTはYAGレーザーを用いるのが普通ですが、眼内の水分の流れを改善するために線維柱帯(房水の排出を調整する組織)にレーザーを当てる治療法です。この治療により、眼圧を下げることができます。
  • 網膜疾患
    ダイレーザーは、網膜の光凝固療法に使用されます。特に、網膜剥離につながるような裂孔や変性巣、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症など、網膜に異常な血管が現れる病状において、レーザーによる治療が行われます。ダイレーザーは、網膜に高精度でレーザーを照射し、異常血管を凝固させることができます。
  • 加齢黄斑変性症
    加齢黄斑変性症における治療法として、古くからダイレーザーを使用して異常な血管をつぶす治療はありました。

ダイレーザーの利点

  • 多様な波長
    ダイレーザーは多くの波長を使用できるため、さまざまな眼科疾患に対応できる柔軟性を持っています。
  • 精密なターゲット
    レーザーを非常に精密に目の異常部位に照射できるため、周囲の組織への影響が少なく、高い治療効果が得られます。

ダイレーザーの注意点

  • 治療後の副作用

ダイレーザー治療後、特に網膜に対しては、一時的な視力低下や眼内の炎症が発生することがあります。これらの症状は通常は軽度であり、治療後に回復することが多いですが、患者の状態によっては注意が必要です。

3. YAGレーザーとダイレーザーの比較

特徴 YAGレーザー ダイレーザー
主な適応疾患 後発白内障、緑内障治療、網膜疾患 緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症、網膜静脈閉塞症
治療方法 後嚢切開、虹彩切開、網膜光凝固 線維柱帯形成術、網膜光凝固、異常血管の除去
波長の範囲 1064nm:赤外線(主に使用される波長) 532nm:緑、585nm:黄色 など、可視光領域の波長
使用目的 組織の切開や凝固 血管の凝固、組織のターゲット治療
治療後の回復 迅速な回復が可能 少し時間がかかることがある、視力の改善に数日かかる
利点 非常に精密で低侵襲、迅速な回復 多様な波長でさまざまな疾患に対応、精密な照射

4. まとめ

  • YAGレーザーは、主に後発白内障の治療や緑内障、網膜疾患において重要な役割を果たしています。高精度で非侵襲的な治療が可能です。
  • ダイレーザーは、特に網膜疾患や緑内障の治療に使用され、異常な血管の凝固や視力回復に有効です。多様な波長を使用できるため、幅広い適応があります。

どちらのレーザーも眼科での治療において非常に有用ですが、最適な治療法を提供するため適切な選択が重要です。

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